しかし、栄太郎は煩わしそうに手で払うと

しかし、栄太郎は煩わしそうに手で払うと

しかし、栄太郎は煩わしそうに手で払うと、「こんなに集まってたって危険が増すだけだよ?邪魔だから散ってくれるかな」と言い放つ。しょぼくれた男たちを放置して、紫音を部屋に招き入れた。「いいんですか?」「構わないよ。ここには来ないでって元々言ってあるんだ」「…栄太郎さんは、何故彼等と?敵…なんですよね?」一番気になっている事を聞けば。栄太郎はくすりと自嘲するように笑った。「さぁ…何故だろうね?」自分でもわからなかった。ただ、彼等といると、懐かしい故郷での事が思い浮かぶ。それはとても居心地が良くて。同時に、二度と帰らぬ日々だという事を思い知らされるのだけれど。巧克力囊腫嘲めいた笑みを見て、見た目だけでなく中身も多少変わったような気がした。最初の彼は、師を亡くした事に耐え切れず、孤独に復讐する事のみを考えていたのだ。幕府は敵。幕府に従う者は敵。成立したその公式に当てはまるものは全て敵、だった。「正直に言うとさ」窓の外に目をやり、栄太郎は小さく語る。「憎くなくなった訳じゃない。だけど…少なくともあの三人は違うんだよね」そんな言葉に、紫音は少し安堵した。やみくもに誰かを憎んだって意味がない。「ま、敵になれば容赦なく排除するつもりだけれど」「今は敵じゃないと?」「僕は身分というものが嫌いなんだよね。それを傘に着る奴は虫酸が走る。晋作が立ち上げた奇兵隊に参加してあげたのだってそれがないからだし。まぁ隊士が切腹になって、晋作が罷免になった時点で、見限ったけど」「……………身分、ですか」また、出てきた言葉に、紫音は眉を寄せた。「どうかした?」初めて見る表情に、栄太郎が、首を傾げる。紫音はすぐにいつもの微笑を見せて、話の先を促した。「その身分をなくすには、幕府はいらないんだ。そういう意味では新撰組は邪魔でしかないけど…彼等はそこまで深く考えてないからね。いい暇つぶしにはなるよ」くすくすと笑いながら言う栄太郎は、素直じゃないながらも今は敵でないと肯定していた。憎しみに捕われていた栄太郎が…変わった。紫音は自分の左手をじっと見つめ、栄太郎の最後を思い浮かべる。栄太郎さんの未来を…変えたい。せっかく、深い闇から抜け出した栄太郎さんの…命を救いたい。それが、私がしたい事。「ところでさ、楓は原田が好きなの?」真剣に決意を固めている中、突然問い掛けられた一言。一瞬意味がわからず、その意味を理解するや否や首を傾げた。「…何それ」「意味が良くわかりません。好きとか考えた事ありませんし」多少予想出来なくもない答えに、栄太郎は深いため息をついた。それがまるで馬鹿にされているように感じた紫音は、軽く睨むように栄太郎を見る。「ま、仕方ない…か。言い方を変えてあげる。原田の事が特別気になったりする事はない?」「特別…ですか」「そう、特別」「特別馬鹿だなぁと思う事はありますけど…」「うん、それは僕も思うけどね。そうじゃなくて…例えば原田に抱かれたいと思う?」「だっ!?」紫音は思わず後退り、したたかに文机にスネをぶつける。予想外の痛みに生理的な涙を滲ませた。栄太郎はあまりの動揺ぶりに笑いを堪える事が出来なかった。声をあげて笑う栄太郎を恨めしそうに見つめると、小さく呟いた。

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