どうやら、昔から八木家と

どうやら、昔から八木家と

どうやら、昔から八木家と懇意にしており、よく風呂を貸しているらしい。

普通、武家でもない一般の家に風呂はないのだが、聞けばここの家人が相当な風呂好きなために設置したそうだ。

「ほら、勇坊。背中洗ってあげるから、前に座って」

「ん!」

桜花は勇坊を自分の前に座らせると湯をかけ、活髮 糠袋で背中を洗い始める。勇坊は気持ち良さそうに目を細めた。

桜花はふと、口を開く。

「あのね、勇坊。お願いが有るんだけれど」

「なぁに?」

「私が女だってこと、新撰組の人達に言わないでね」

洗い終わると、桶で湯を掬って流した。

「何でなん?」

勇坊は首を真上に上げて背後にいる桜花の顔を見る。その頬を桜花は両手で挟んだ。子ども特有のもちもちとした感触が気持ちいい。

「そうしないと、私は彼処に居られなくなるから」

「えッ、そうなん?…うん、せやったら俺誰にも言いひん!

「ふふ、これで納得しました」

「な、何がです?」

沖田の言葉を聞いて現実に戻った桜花は首を傾げる。

「ほら、この間の大立ち回り。貴方が新撰組を振り切って逃げられたのは何故かと、疑問に思っていたのです。普通、我々に背を向けて逃げ切れる者などそう居ません」

あれは吉田さんが助けてくれたから、そう思ったが言えなかった。

「貴方の場合、特別腕が立つからいざという時には、刃を交えるつもりだったのでしょう?だから逃げることに集中出来たんだ」

合点がいったように沖田は笑みを浮かべている。

「い、いえ!そんなつもりなど…!ただあの時は必死で!」

血の気がサアッと引いた桜花は全力で否定した。

「ふふ、その様に否定しなくても。まあ、そうですねェ。貴方が敵に回らなくて良かった、この事だけは言えますね」

沖田は口角を上げてそう言う。表情こそは柔らかいが何処か殺気に似た重圧を感じた。

「…私も新撰組が敵に回らなくて安心しました。むしろ回したくないです」

「ええ、そうですとも。美しい鈴木君に刀を向けるなど、その様な真似…、この私に出来る訳がないだろうッ」

武田は握り拳を高々と空へ突き上げながらそう言い放ったが、沖田も桜花も相手にしていない。

唯一松原だけがアホ、とたった一言反応しただけである。

そんな微妙な空気の中、対戦相手であった馬越が近付いてきた。

「…鈴木さん。力強く、素晴らしい剣技でした。私の完敗です」

そう言うなり馬越は初めて笑顔を見せる。

美しい少女のような風貌の彼は笑うと小さな稽古を終えた桜花は自室に戻ろうと、階段を上っていた。

その時、後ろから呼び止められる。

「桜花は~ん、少し頼みがあるんやけど。今、ええ?」

それはまさだった。

「はい、大丈夫ですよ」

桜花はそのまま方向を転換して下りていく。

「すんまへんけど、勇太郎を湯浴みに連れて行って貰えへんやろか…」

そう言うとまさの後ろに隠れていた勇坊は前に出てきて満面の笑みを浮かべる。その顔や足には泥が沢山ついていた。

「この通り、泥だらけにしてしもて。為三郎は1人で行けるんやけど、勇太郎はまだ無理やろ思てなァ。かと言って為三郎に任せる訳にもいかへんから…」

「ええ、勿論良いですよ。勇坊、私と一緒に行こうか」

目線を合わせて桜花がそう言うと勇坊は元気よく返事を返す。

「ホンマはうちが行ければええんやけどな。その…、お馬になってしもて…」

お馬というのは現代で云う月経のことだ。言われてみれば、まさの顔色が優れないように見える。

「成る程…。勇坊の事は私に任せて下さい」

「おおきに。勇太郎、案内したってな。桜花はんの言う事をよう聞くんやで」

「わかった!俺に任しときィ!」

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